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福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)1673号 判決

原告 水谷ヒサ子

被告 樋口徳雄

他五名

被告六名訴訟代理人弁護士 河野美秋

主文

一、福岡地方裁判所昭和四五年(手ワ)第二三一号小切手金等請求事件につき当裁判所が同年一一月三〇日言渡した手形小切手判決を取消す。

二、原告の被告等に対する各請求を棄却する。

三、訴訟費用は、異議申立の前後を通じ、原告の負担とする。

事実

原告は本件手形小切手判決の認可を求め、被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

原告は、請求の原因として

一、被告等は、四二名の組合員をもって組織する訴外福岡砂採取販売協同組合の組合員である。

二、同組合の理事訴外猫沖恒義は、無断で同組合代表理事平野清名義を用いて、別紙小切手目録記載の持参人払式小切手五通を振出し原告に交付し、また、別紙約束手形目録記載の約束手形四通を振出した。

三、原告は、前記小切手五通を昭和四五年九月八日支払人に呈示したが、支払人は小切手金の支払を拒絶するとともに、右各小切手に同日付支払拒絶宣言を付した。

四、前記手形四通については、同目録記載の裏書譲渡がなされ、各満期に支払場所に呈示されたが、支払拒絶となった。

五、原告は、現に右小切手五通及び手形四通を所持している。

六、原告は本件小切手を取得するのに当り、猫沖の地位に鑑み、同組合の小切手振出につき猫沖が代表者の記名捺印を代行する権限を有するものと信じていた。

七、同組合は右各小切手及び各手形につき、振出人として支払の責任を負うものであり、組合員たる被告等は、合同して、右各小切手金計一〇万円及びこれに対する呈示の後である昭和四五年一〇月五日以降完済まで年六分の割合による金員、ならびに右各手形金計八〇万円及びこれに対する満期の翌日たる同年九月八日以降完済まで前同割合による金員の各支払義務を負うものである。

と述べ、被告の主張に対し「同組合が中小企業等協同組合法に基き設立された協同組合であることは認める。」と答えた。

被告訴訟代理人は、答弁として

一、原告主張の請求原因第一ないし六項の各事実は認める。

二、本件小切手及び手形の振出名義人たる訴外福岡砂採取販売協同組合は中小企業等協同組合法に基き設立された協同組合であり、同法第一〇条四項の規定に照らし、同組合の行為につき組合員たる被告等は直接に責任を負うものではない。

三、また、本件手形、小切手は猫沖が自己の利益を図るため振出したものであるから、同組合の責任に属しないものである。

と述べた。

証拠〈省略〉。

理由

一、原告主張の請求原因第一ないし六項の各事実及び本件各手形、小切手の振出名義人たる訴外福岡砂採取販売協同組合が中小企業等協同組合法に基き設立された協同組合であることは、当事者間に争いがない。

二、当事者間に争いのない右請求原因事実により直ちに同組合が振出人としての責任を負うものとなすべきか否かの点は措き、原告の本訴請求は、同組合の組合員たる被告等が、同組合の債務につき、組合員たることの効果として直ちに弁済の責任を負うことを前提とするものであるから、この点につき判断する。もとより、中小企業等協同組合法に基き設立された組合は、その構成員たる個々の組合員とは別個の権利義務の主体として、法人格を有する社団法人であることは同法の規定により明らかであるが、社団法人の個々の構成員は、その法人の債権者に対する関係において、特に法律に規定ある場合を除き、当該法人の債務につき直接に弁済の責任を負うものではないと解すべきところ、中小企業等協同組合法は、その第一〇条四項において「組合員の責任は、その出資額を限度とする。」旨規定し、第一五条において出資の払込を完了しなければ組合員たり得ない趣旨を明らかにしていること、その他、構成員たる組合員の責任に関連する規定の趣旨において、商法第二〇〇条等同法における株式会社の株主に関する規定と軌を一にしており、商法における合名会社の社員、合資会社の無限責任社員及び有限責任社員の対外的責任に関する如き法人の債権者に対し構成員をして直接弁済の責に任ぜしめる規定は存しないから、中小企業等協同組合法は、組合員の責任につき、これを株式会社における株主と同様いわゆる有限責任とし、組合に対する債権者の債権を担保する財産として、組合員の履行した出資により組合に保持されるに至った組合の財産のみをもってその引き当てとなすべく限定したものと解すべく、組合員たることを根拠として直ちに組合の債務につき弁済の責任あるものとなすことはできない。

三、そうすると、原告の本訴各請求は、すでにその前提を欠くものであり、理由がないことは明らかであるから、これを失当として棄却すべく、これと判断を異にし本訴各請求を理由ありとして認容した本件手形小切手判決を取消すべきものとし、民訴法八九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺惺)

〈以下省略〉

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